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ステレオ写真の原理

１　たとえば５メートルほど離れた部屋の隅にある花瓶（でもタンスでも電子
　レンジでも何でもいいのだが、とりあえず花瓶）をじっと見つめたままの状
　態で、目の前に人差し指を１本つきだしてみよう。目の焦点の合っていな
　い指は二重に見えるはずだ。（基本認識１）

２　同じく花瓶を見つめた状態で、今度は両手の人差し指を、２本並べてつき
　だしてみよう。指と指との間隔は５センチぐらいがいいだろう。２本の指は
　やはり二重に見えるが、右手の指の左側の像と、左手の指の右側の像が、
　ほぼ重なって見えるはずだ。もちろん形が違うからピッタリ一致というわけに
　はいかないが、それでもほぼ同じ位置に見えるはずである。重なっていない
　方の像は半透明で背後が透けて見えるが、重なった像は透明ではなくなって
　いる（基本認識２）

３　ここで２本の人差し指の代わりに、特殊な方法で撮った２枚の写真（ステ
　レオ写真）を置いたと思ってほしい。人差し指の時と同じように、２枚の写
　真はそれぞれ二重に見え、右側の写真の左の像と、左側の写真の右の像が重
　なる。この場合は指と違って、２枚の写真に写っているものはほとんど変わ
　らないので、ピタリと重なって見えるようになる。のみならず、平面である
　はずの写真に奥行きが感じられる。立体的に見えるのである。これがステレ
　オ写真の２つの見方（立体視）のうちの１つ、「平行法」の原理である。
　（基本認識３）
　　目の焦点は背後の花瓶に合っているわけだから、こうして結ぶ像はあくま
　でも虚像なのだが、視覚のトリックで、そこにあたかも「立体写真」が存在
　するように見える。のみならず、この視神経の中だけに現出する虚像の方が、
　実際に存在する元の写真より生き生きとした現実感があるように見えるから
　不思議である。
　　もちろんいちいち花瓶を見ながら立体視する必要はないわけで、慣れれば
　ステレオ写真を目の前にした状態で、目の焦点だけを遠くにずらせばよい。
　写真を通り越してその背後を見透かすようにするのがコツだ。

４　前述の「基本認識１」に戻る。今度は花瓶ではなく、人差し指の方に目の
　焦点を合わせてみよう。すると花瓶の方が二重に見えてくるはずだ。（基本
　認識４）

５　仮にまったく同じ花瓶が左右に２つ並んでいたとすれば、花瓶は２つとも
　二重に見える。ここで目と人差し指との距離を近づけたり離したりして、目
　の焦点距離をいろいろと変えてみると、右側の花瓶の左の像と、左側の花瓶
　の右の像が重なって見える位置が見つかるはずだ。（基本認識５）

６　そこで２つの花瓶の代わりに、特殊な方法で撮った２枚の写真（ステレオ
　写真）を置いたと思ってほしい。花瓶の時と同じように、２枚の写真はそれ
　ぞれ二重に見え、右側の写真の左の像と、左側の写真の右の像が重なる。ま
　たしても平面であるはずの写真に奥行きが生じ、立体的に見えるのである。
　これがステレオ写真のもう１つの見方、「交差法」である。（基本認識６）
　　もちろん実際には、５メートルも離れた位置にステレオ写真を置く必要は
　ないし、目の焦点距離を調整するために人差し指を突き出す必要もない。慣
　れればステレオ写真を目の前にした状態で、目の焦点だけを近くに持ってく
　ることができる。目を寄り目にするのがコツだ。

　初めての方はすぐにはうまく見られないかもしれないが、成功すれば目から
鱗の落ちるような快感を味わえる。感動という言葉が大げさではなくなる。ぜ
ひ挑戦してみていただきたい。

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